02 *神の国、昔の話*

『やあ桐哉とうや。ずいぶん久方ぶりだね?…分かってるよ、私には全て。あの子のことだろう?』

 悠爾ゆにの事を“彼”に話そうと、世界図書館をフォエニドに任せて<天界>へ向かった桐哉。“彼”を探し、<天界>を堕天使ゆえの片翼で飛び回っていたら、当人の方から声をかけてきた。

「そこにいらしたのですか、…采彌ことや様」

『疲れたろう、片翼で飛び回ったりなんかするから。おいで、こちらで話をしよう。さあ、座りなさい』
「ありがとうございます」
 <天界>に無事着いた桐哉は、つい先ほどの事件を“彼”こと矢神やがみ采彌、つまり主人である神に話す。
「まず、御前で正装でないことをお詫びします。急ぎ伝えたいこと、お伺いしたいことがあってここに参上しました」
『いいよ、正装なんて形だけだからね。他の天使たちに聞かれたら怒られそうだけど。…本当、わざわざこんな所まで来てくれてありがとう、桐哉。“お詫び”しなきゃいけないのはこちらのほうなのに』
こう言って、采彌は申し訳なさそうに苦笑いする。桐哉は驚いて言う。
「なぜ…あなたが謝るのですか」
『それは、桐哉…。今回のことが起こったのは、半分ほど私のせいだからなのだよ』
「どういう…ことですか」

『長い話になるけどいいかな?いや、君にはいつか話そうと思っていた。今がその時なのかもしれない。図書館は大丈夫かい?』
「はい。フォエニドに全権を一時預けています」
『よろしい。では、昔々の話をしよう』

* * *

 私が、君たちが護ってくれている<世界>を創ったのは知っているだろう?遠い遠い昔、私はたくさんの<世界>を創った。まずはこの<天界>、次いで私の大事な天使たちが住む<天使界>、<人間界>…。他にもたくさんあるね。…それらをまとめ、全てに通ずるのが<白の世界>だ。そして…君、桐哉に管理を頼んでいる<世界図書館>だ。
 そこまでは良かったんだ。順調だった。ただ、こう長く生きていると平和なだけではつまらなくなってしまった。そこで私は、<魔界>を創った。そこから、保たれていた平和という均衡が、崩れ始めたんだ。

* * *

 その後も2人は長いこと話し、情報を共有した。図書館が心配になってきた桐哉が、采彌に暇を申し上げる。そして帰館の時。再び魔法陣で世界移動をしようとする桐哉を采彌が引き留めた。
『ああ、桐哉。1つ、大事なことを言っていなかったね』
「ええと…。なんでしょうか」
『その、悠爾という子のことだ。彼は大丈夫だよ。見つけたら、こちらで保護しておこう。君はとりあえず、戦争のことは忘れてていい。また何かあれば私の方から君に使いを出そう』
「え…!?生きているのですか!?まさか、あの状況で…?てっきり死んでしまったものと…」
『うーん、まあ、ね。彼はちょっと特別らしいんだ。だから、君は安心して戻りなさい。…図書館に嫌な気が見える』

 そうして図書館に戻った桐哉を待っていたのは、荒らされた本の山と傷ついたフォエニドだった。