01 *妖精との再会、そして始まり*

「あの、お二方…。お久しぶりです。桐哉さんの薬、お持ちしました」

「「…え?」」
何十年かぶりに、見事にハモッた瞬間だった。

* * *

悠爾ゆに…!いきなり来るから、びっくりしたよ!久しぶりだね!」
 桐哉とうやとフォエニドが二人で桐哉の日記を読んでいた時、突然<奥館>の扉が開いて聞きなれた声がした。噂をすれば影、とはよく言ったものだとフォエニドは思った。ちょうど、悠爾のことを話していたのだから。ただ、何かがおかしい。
「悠爾…妖精エルフだとはいえ、全く成長していないですね…?」
「え」
「以前会ってから、何十年も経っています。殆ど百年くらいです。なのに、あなたは何故初めて会ったあの日から何も変わっていないのですか…?」
 悠爾は、初めて会った時は10才くらいの少年の格好にエルフの羽が生えていた。今日の悠爾の姿は、それと全く変わらないのだ。疑問に思ったフォエニドは、それを率直に話した。
「確かに。エルフなら今頃、人間界でいう“中学生”くらいになっているはず。…まあ、こんな世界だもの、ちょっとくらいは謎があった方がいいでしょ、フォエニド。ねえ、薬以外にも何かあるんでしょ?」
桐哉は納得したが、あまり気にしていないという体で話を変える。
「あっ、はい。そうなんです。誰かに話した方がいいと思って…でも、こんな不確かなこと桐哉さんたちにしか話せないです」

「…何か、重要な情報なんだね?悠爾」
「はい。今日のことなんですけど、いつもみたいに<白の世界>、…この世界図書館の外の世界を漂っていたら、…偶然です。聞いてしまったんです」
「何を…?」

「もうすぐ、全ての世界を揺るがす大戦争を起こす、って」

「な…っ!?」
 悠爾の衝撃の告白に、2人とも驚愕する。
「最初は冗談かと思ったんです。けど、やっぱりかなり本気に聞こえたので…。僕、ここしか知らせられるところが無くて…。ど、どうしたらいいんでしょう?」
話したのを後悔するように口に手を当てて塞ぐようにし、悠爾はおびえて泣きそうになっている。桐哉が悠爾を落ち着かせるように、背をなでながら問う。
「悠爾、それどのあたりで聞いたか分かる?白の世界は広いから、分かりづらいかもしれないけれど」
「…よく、分からないところです。変な怪物がたくさんいて…真っ暗で、怖かった」
「……。ありがとう、僕に任せて。悠、」

「悠爾…っ!?」
「うわああああああああああああああああああっ」

 桐哉と悠爾が話していた時、突然どこからともなく大量の蛇が現れて、悠爾を包んだ。かと思うと、悠爾の周囲に強力な防護結界が現れ、悠爾を助けようとした桐哉とフォエニドは行く手を阻まれた。その結界の中で悠爾は蛇に全身を包まれ、どんどん絞め付けられていく。桐哉とフォエニドは見ているしかできなかった。
 悠爾は苦しみながら、その後収縮していった結界と蛇に圧縮され、一瞬後には、何も跡形もなかった。

「悠爾、悠爾…!?どうしよう、何なのあれ…フォエニド、悠爾が…っ」
 突然起こった事態の訳が分からず、桐哉はひどく取り乱していた。先に冷静になったフォエニドが桐哉をなだめる。ふと、思いついた。
「桐哉様…。あ…、“彼”の所へ行かれてはいかがでしょう…?」
「あ…!」
「そうです、あの方ならば何かお知りかもしれないですし、もしそうでなくとも、桐哉様にはこのことを伝える義務があるのではないですか?」

 その言葉でとりあえず落ち着いた桐哉は、急ぎ規定である正装に着替えもせず<奥館>のさらに奥の床にある巨大な魔法陣の上に立った。
「留守中の館は私にお任せください。桐哉様は急ぎ、<天界>へ!」
「うん…!頼んだよ、フォエニド。僕の留守中の世界図書館の全権は君にあることを宣言する。…それじゃあ、行ってきます」
 “彼”に事を知らせるため、桐哉はフォエニドと協力して世界移動の魔法陣を発動させる。桐哉が旅立った後、フォエニドは図書館の全扉ぜんぴを閉じ、籠城状態に入った。

『やあ桐哉。ずいぶん久方ぶりだね?…分かってるよ、私には全て。あの子のことだろう?』