03 *襲撃*
『
“彼”、つまり
「桐哉様…!よくご無事で…」
「フォエニド、これはっ!?一体どういうこと…?采彌様がすぐ戻れと仰ったから、戻ってきたんだけど。…何があったの、フォエニド?」
「大変なことになりました、桐哉様…」
* * *
しかし突然、世界図書館全体に高圧力がかかったように、大きく揺れたのだ。混乱を鎮めるために精霊を召喚して客を任せ、フォエニドは圧力がかかった現場へ向かうことにした。意識を集中させると、図書館の異変がある場所はすぐに分かる。
「これは…。<
フォエニドがこう唱えると、足元から蒼色の魔法陣が広がり、星が流星のように溢れた。
「
次の瞬間、ドウッと空気が唸り、フォエニドはそこにはいなかった。<別館>へ瞬間移動したのだ。
<別館>に駆け付けたフォエニドが目にしたのは、散乱した本や資料の山と瓦礫、そして壁が崩れた向こうに浮遊する、片翼の天使と2匹の黒猫だった。
「…っ!?これは…!」
謎の天使は、最初はただ何かを探している風で、フォエニドには全く気付かなかった。が、フォエニドが天使の顔を見ようと本の山へ足を踏み出した時、
ドサァッ!
「 ! 」
案の定崩れてきた本の音で、天使はフォエニドの存在に気付いた。
「…くふふっ。みィつけたあアァっ!」
「な、 ッ!?」
見つかったか、とフォエニドが危惧する間に、天使は右手を一捻りした。その瞬間、フォエニドは壁にうちつけられ、そのまま動けなくなってしまった。
「ああ、ああ。お前が噂の番人君?どう、
「誰です…っ!?何故、この図書館にこのようなことを!?」
ニヤリ、と怪しげな笑みを浮かべながらフォエニドを眺めていた天使だが、フォエニドにそう問われて初めて思い出したように聞き返した。
「あー、そうだ。君に聞きたいことがあるんだよねえ。…ねぇ、お前の“ご主人様”…、何処にいるの?探してもいないんだけど?」
質問に質問で返され、フォエニドはたじろいだ。その“ご主人様”のことは、<人間界>で例えるところの国家機密レベルの情報である。それに、どこに居るか答えたところでこの天使が“そこ”にたどり着けるだろうか?
「名も知らぬ者に易々と教えるわけがないでしょう…!答えなさい!あなたは誰です!?」
「…ふーん。ま、ふつー答えないか。しょうがないなぁ…だったら、無理矢理居場所を吐かせるしかないよね!?」
「望むところです!」
「暴れろ、
「目覚めよ、我が
*
しばらく経って、2人とも多大な傷を負ったが、先に動けなくなったのはフォエニドの方だった。天使は、フォエニドの複数のマギを巧みに避けて、フォエニドだけに確実に攻撃を当てていたのだ。魔法ばかりを使うから、
「はあ~あ、こんなのでよく“
「…私はやられても、あの方は見つかりませんよ」
「何、居ないってことかい?…どこに隠した、番人君?まあ、お前が倒れてる間に見つけちゃえばいいだけなんだけどなあ。…というわけだから、もうちっと黙っててくれない?……
「ぐ…っ! 、っは…、あの方を見つけて、何を…する、つもりだっ!」
「ああもう、うるさいなあああああ!」
自らの攻撃を受けて尚、食い下がるフォエニドに激昂した天使は、怒りのままにフォエニドに魔導攻撃を放った。フォエニドは、そのまま本の山に埋もれて動けなくなってしまった。
「はっ、そこでご主人様が見つかるのを黙って見てろ」
「桐哉様…。まだあちらにおられるといいのですが…」
桐哉を案じ、フォエニドは小さな声でつぶやいた。その頃、桐哉はまだ采彌と話している最中だった。
それからしばらく、天使は桐哉を探して図書館をうろついていたようだったが、フォエニドの言うとおり、本当にいないと分かると、諦めたらしく溜め息をついた。フォエニドは安心したのを悟られないように、静かに息を吸った。
「仕方ない。時間もあるし、我はもう帰るとするよ。まさかこんなに探してもいないなんてな…。お前の言うとおりになったな」
「用が済んだのならば、早急にこの世界図書館から立ち去りなさい。回復して反撃しようと思えばいつだってできるのですよ」
「まだ、そう殊勝なことを言うか。分かるだろうが、我はこれで本気ではないぞ?」
天使はそう言うと、ニヤリと笑った。フォエニドも負けずに答える。
「そのくらい言ってないとやってられませんよ」
「そうだろうな。…なあ番人よ、一つ提案がある」
「…なんでしょう」
「お前が我に付くなら、我たちは喜んでお前を迎えるだろう。だが、お前が我たちに仇をなすなら、その時は…」
ここで一息ついて、天使はフォエニドに宣言した。
「お前のご主人様もろとも、まとめて…喰らい尽くす!」